「過去のトラウマが原因で肥満になったが、毎朝の運動で10kgのダイエットに成功した。」
私のことではありません。単なる例文です。
この文章は、日常的な日本語としては、ほとんどの人に受け入れられるものと思います。(私の専門外なので、科学的に見たら間違っているかもしれませんが。)しかし、この文章を英語などの他言語に翻訳するときは、二つのカタカナ語である「トラウマ」と「ダイエット」には気をつけなければなりません。
日本語では、「トラウマ」は「心的外傷」、「ダイエット」は「痩身」の意味で広く用いられており、上記のような用法は日常表現においては正しいと言えると思います。しかし、私達が扱う特許文書のように、文章がもつ概念を変えずに正確に英語にしなければならない場合、上記の例文の「トラウマ」を "trauma" に、「ダイエット」を "diet" に置き換えて訳すと問題があります。"trauma" は、用語を使用する分野によっては「心的外傷」の意味になりますが、本来は身体組織の損傷も含む「外傷」を意味しています。また、"diet" は、「規定食」、「食事療法」、「食事制限」など、「食」に関する場合に用いられる表現です。従って、上記を英訳する場合は、他の表現を適宜選択しなければなりません。
特許明細書は、様々な立場の人が読む文章であり、書き手が意図した概念があらゆる読み手に同じように思い浮かばなければなりません。それは、翻訳された文章になっても同じことです。ですから、最初に日本語で明細書を書くときに、例えば上記の例文であれば(明細書らしくはありませんが)、「過去の心的外傷が原因で肥満になったが、毎朝の運動で10kgの減量に成功した。」などと初めから書いてもらうと、翻訳者の立場としては、カタカナ語の翻訳で躓くおそれが減るので、ありがたいと思います。しかし、のちに翻訳されることを想定して日本語明細書を作成することは容易ではありません。特に上記例文の「トラウマ」の場合は、誤りとは言えないので、これを敢えて「心的外傷」とすることを思いつくのは難しいと思います。ですので、そこは外国特許技術者や特許翻訳者の技量によって適切に翻訳すべきだと考えます。
そんなことを日々考えていると、テレビを見ていても、ネットを見ていても、ちょっとした表現が気になりナイーブになってしまいます。「ナイーブ」と "naive" も気になっています。